ろーきしょ!

労働基準監督官について酒を飲みながらアレコレ書くブログ

告訴・告発 1

 捜査機関としての監督署、というのは最も書きたかったテーマの一つ。ニュースを見て、取り急ぎ投稿する。

 

 

 タレントの春名風花さんが警察に提出した告訴状が受理されなかったと大きな話題となっている。ネット上のコメントを見る限り警察に対する批判が大半を占める。

 告訴・告発(被害者が行うのが告訴、第三者が行うのが告発という感じ)は法違反について検察か司法警察職員に対して行うもので、当然労働基準監督官もその対象となる(当然というか、実は、と言った方がいいかもしれない)

 

 

 

 

 この告訴・告発。監督署が最も嫌うものの一つである。

  

 

 

 

 なぜなら、告訴・告発がなされると監督署の業務が滅茶苦茶になってしまうから。

 

 今やっていること、これからやろうとしていること、それらを全て横にブン投げて、その告訴・告発に対応しなければならなくのである。

 監督官が3,4人しかいない監督署が大半で、それなりに監督官がいる監督署は労働者からの相談や申告に時間を取られる。そんな中、突然発生する告訴・告発事案は、署の体制を大きく揺るがすのである。

 

 監督署は逮捕権があるのに逮捕しない、捜査権限があるのに捜査しない(事件化しない)、と世間から散々批判を受けているわけだが、なぜ事件化しないのか。

 

 それは、刑事事件として捜査し、検察に送致することは莫大な業務量を必要とするからである。

 

 告訴・告発は圧倒的に労働基準法違反が多い(監督官が所管する法律は他にも色々ある、実は)。法律違反として検察に送致するためには構成要件は当然であるが、その他色々ハードルを超えなければならない。法律をあまり知らない一般の方や刑訴法を知らない社労士が思っている以上に労働基準法違反として事件を検察に送致するのは大変なのである。

 この辺りは監督署と世間の認識のかい離が非常に大きい部分だと思う。  

 

 内部的に労基法違反の捜査については、目安として3か月で送致しろという感じであるが、実情は半年で送致すれば優秀と言われる。1年がかりでも珍しい方ではない。

 捜査する立場となっても、通常の監督官としての仕事が重くのしかかる。(行政指導としての臨検監督やら電話・窓口対応やらetc)

 

 だから基本的に監督署は法違反を事件化しない。行政指導で終わらせる。事件化して検察に送致するのはよっぽどの事情があるときのみ。

 これが良いか悪いかは当然悪いのだが、職員が少ないのでどうしようもない。電話・窓口対応で一日が終わる監督官も当たり前にいるのだから。現場の体制をどうにかしないととても対応しきれない・・・

 

 

 春名風花さんの件に関しては、弁護士が告訴状を作成しているので、キチンとした書面になっているのだと思う。それを受理しなかったのは警察に落ち度があると思う。

 

 犯罪の被害に遭っている方にとって、告訴は重要な権利である。春名風花さんも苦しんで苦しんで提出した告訴状だと思う。これを受理しない姿勢をとった警察は非難されて当然である。

 

 ただ警察と同じ告訴先の署の監督官にとっては、警察大変だね、という感じである。

 

 

 

 

2月の監督署

 記事がどれもこれも中途半端で申し訳ないが、続きの記事作成について鋭意努力中なので、もうしばらくのご辛抱を・・・!

 

 さて、2月の監督署。署長や課長といった管理職にとっては、年間の計画が達成できるか一番気を揉む時期である。

 年度初め(正確には年度開始前、異動前の旧体制で翌年度の計画を組む)に、これから1年間、これだけの件数の監督指導をこなそうという目標が立てられる。下っ端の監督官が意識することはほとんどないが、管理職は目標が達成できないと上級庁の労働局の幹部からネチネチ言われる。そのため、目標は達成しなければという思いが強い。

 目標達成のために毎月計画を作成するわけだが、当然計画どおりに行くわけではない。労働者の相談にのって一日が終わることもある。突発的に災害が発生し、一日がかりで調査をすることもある(特に死亡災害だと目も当てられない)。労働者からの申告が立て続けに発生することもある。事業場の労務担当者から就業規則(或いはその他の書面)の作り方を教えてくれと言われ、丸一日かけて相手することもある。管内の事業場が倒産して立替払いの処理をしなければならないこともある・・・

 

 計画が思い通りに進むことはまずない。それが監督署の業務である。

 それを知ってる署長、課長は、計画がどうのこうのと監督官を責めることはまずない。が、労働局の幹部、特に本省からやってきた現場を知らないキャリアの課長や本省籍監督官は、計画達成にこだわる。まぁ、彼らにとっては大ボスの本省から睨まれてるわけだから仕方ない部分もあるが・・・

 

 2月の監督署はこれだけではない。平の監督官も含め全ての職員がソワソワする。

 

 なぜなら、

 

 

 人事異動の時期だから。

 

 

 

 

 

 

刑事と民事

 刑事では嫌疑不十分で不起訴となったが民事裁判で勝訴したニュースが話題となっている。

 刑事と民事の結論が違うのはおかしいだろ、というコメントが多々あるが、それは全くおかしい話ではない。

 このブログで主張したいことは多々あるが、この刑事と民事の違いは最も書きたかったテーマの一つ。

 なぜなら、刑事と民事の違いというのは労働法令で特に顕著にあらわれ、最も悩ましいものであるから。

 

 労災認定の裁判では100時間を超える時間外労働時間が認められたが、それを刑事事件として捜査しても半分の50時間にしかならない、というのは当たり前にある。また、賃金不払いについても、刑事事件としては全くモノにならない(客観的な証拠がない)場合であっても民事裁判では労働者側の主張が全面的に認められることもある。

 

 これは偏に刑事裁判と民事裁判で求められる立証責任の度合いが全く違うからであるが、詳しくはまた後日。

 

 

 ※刑事と民事で結論が異なること有り得るというだけで、当該事件が不起訴になったこと、検察審査会でも不起訴相当となったことが妥当という意見ではないです。念のために書いておきますが。 不起訴になった経緯も不可解な点があると個人的には思います。

事務所衛生基準規則

 前田恒彦元検事が事務所衛生基準規則(事務所則)に言及している記事を読んだ。本日付けの記事でyahooニュース等にも載ってるのでぜひ見てほしい。

 

 事務所則は労働安全衛生法(安衛法)に基づく省令の一つ。

 安衛法は省令に具体的な基準を委ねているため、膨大な省令を把握しないとほとんど法違反を指摘できないのである。

 以前の記事でも書いたが、この安衛法に基づく省令の知識・経験の習得というのが監督官にとって一番大事で一番のハードルとなる。監督官が所管する一番メインの法律は労働基準法ではなく安衛法、とよく教えられた。

 

 安全衛生を専門に担う技官の採用が止まって10年以上経過し、おそらく今後も採用を再開することはないため、技官に代わる安全衛生の専門家とならなければならない監督官にとっては、今まで以上に安衛法は重視せねばならない。ところが最近は長時間労働や 賃金不払い等労働基準法違反の業務ばかりさせられ、建設現場やら工場やらの監督が減っている。これは危惧せねばなるまい。かつては技官からヘルメットやマスクの付け方から厳しく指導されたものだが・・・ 。

 

 さて、事務所則。検事の記事にもあるが、トイレの数やら照明の明るさやら、大掃除やらまさに「オフィスを快適に整えるため」の基準を設けている。

 いろいろな基準を設けているのだが、事務所則は監督行政の中で、

 

 

 

 ほとんど無視されている。

 

 

 

 もしかしたら事務所則という省令を知らない監督官もいるかもしれない。省令は知っていたとしても中身を理解してる監督官はほとんどいないのではないか。

 事務所則違反を指摘した監督官も全国で年間数人程度ではないだろか(統計は把握してないので適当)。それくらい事務所則は重視されていないというか、忘れられている省令である。私はマニアなので、臨検した先が暗かったりすると事務所則を持ち出して是正を促すこともあるが、上司に対する復命の際には、「こんなマニアックな違反よく指摘したね(笑)」なんて言われていた。

 

 

 なぜこんな有様なのか?それはやはり、命に直結しないからだと思う。

 

 安衛法(政令、省令含め)は労働者の命を守る法律である。労働者が死ぬたびに省令が改正され、毎年毎年何かしら追加される。労働安全衛生規則、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質障害予防規則、

 

 この3つが省令の中でも一番よく扱う規則であるが、それは違反=重大な労災に繋がる可能性が高い規則だからだ。

 

 一方で事務所則。個人的にはしっかりと守られるべき省令という認識を持っているが、他の省令に比較して、労災の危険度が高くないというのもあるし、トイレの数など是正させるには非常に困難であるのも一因かと思う。

 

 この辺り改善の必要はあると思う。

 

 

 

 

 

神奈川県庁個人情報流出事件について

 行政文書の入ったHDDを処分する委託を受けた会社の社員がパクッて売りさばいていた事件が大騒ぎになっている。

 

 復元できる状態でブツを引き渡した県庁に大きな批判が向けられているが…これって労働行政、というか国も他人事ではない。

 

 国の行政文書には一部の重要文書を除いて保存年限がある。保存年限が過ぎ且つ内閣府の同意があった文書は廃棄されるわけだが、その廃棄方法は業者による溶解が基本となっている。監督署・労働局以外は知らないが。

 廃棄文書は裁断などはせずそのまんま段ボールに入れて業者に引き渡すため、今回のような情報流出事件が起こる可能性が大いにあるわけだ。

 

 あー怖い

 

監督指導 その1

 世間的には賃金不払いや長時間労働の指導しかしていないイメージがあるが、実は労働基準監督官は様々な業務を行っている。

 

 とはいえ、やはり一番中心になる業務が事業場に対する監督指導である。

 

 事業場に行き、或いは署に呼び出し、タイムカードやら賃金台帳やら様々な資料を確認し、法違反や改善すべき事項が認められたら是正勧告書、指導票等を交付し期日を決めて違反・指導に対する報告を求める。

 

 これが監督指導。

 

 弁護士や社労士がブログ等で解説しているように、4種類に分かれる。

 

 定期監督、申告監督、災害時監督、再監督の4種。

 

 定期監督は年間計画等に基づき能動的に選んだ事業場に対する監督、申告監督は労働者からの賃金不払等の申立に基づき行う受動的な監督、災害時監督は文字どおり災害が発生したときに行う監督、再監督は重大な法違反の是正状況について現地確認が必要な場合に行う監督。簡単に書けばこのような感じである。

 

 月の予定監督件数が10件だとして、定期監督が8件、申告監督が1件、災害時監督が1件というような感じである。もちろん署によって違うが。

 

 

 

 

ジャパンライフ倒産について

マルチで有名なジャパンライフが倒産したのは周知のとおり。

 

未払賃金立替払制度は知らない人も多いが、倒産(事実上含む)してしまったため賃金が不払いとなっている労働者について、労災保険料を原資にその8割を国が立替える制度である。その調査も監督官のお仕事(例外あり)。

詳細は独立した記事を作りたいと思うが、債権者説明会によれば、このジャパンライフの労働者に対しても立替払の処理がなされるようである。

 

・・・これはどうなんだろうか。ジャパンライフといえば反社会的企業といっても過言ではなく、散々問題を引き起こしてきた企業である。当然ジャパンライフの労働者も「加害者」側であろう。

 

今でもジャパンライフによって金を毟り取られた被害者が悲鳴を上げてるのに、その人たちを救済する前に加害者の労働者の賃金を立替えるなんて。

 

法律上仕方ないが、全くもって納得できないのであった。

 

 

あーやだやだ