その1で書いたとおり、監督官の異動は2局7年、その後定着局で定年まで勤務、というのが一般的なキャリアプランであるが、それとは別のルートが存在する。
それが「本省コース」と内部的に呼ばれるもの。
1局目3年間勤務した後、2局目に異動するタイミングで本省を希望すると、地方の労働局ではなく、東京霞ヶ関の本省に配属される。
本省とは民間企業でいう「本社」のことである。
かつては激務という理由から本省希望者は少なく希望すればほぼ通っていたが、ここ数年は監督官の採用が増え、それに比例し本省希望者も増えた結果、結構な狭き門となっているらしい。
この本省コースに入った監督官は「本省籍」とも呼ばれ、都道府県労働局に配属されているほとんどの監督官(便乗的に地方籍という)とは明確に区別され、特別扱いを受ける。一体何が特別なのかというと、
出世が段違いで速くなる。
本省のキャリア組とはまではいかないが、出世しても労働局の課長クラスで定年を迎える地方籍監督官と比較し、段違いに地位が高くなる。
キャリアが新幹線で、ノンキャリア相当の監督官が鈍行であれば、本省籍監督官は急行といったところか。
地方籍監督官の出世のゴールは基本的に監督署の署長、または労働局の課長である。
それに対して、本省籍の出世のゴールは主任中央労働基準監察監督官(長いので「主任中央監察官」)、そして都道府県労働局長である。
主任中央監察官は、監督官試験で採用された生え抜きの監督官に与えられた、数少ない本省の幹部席とのこと。
主任中央監察官は監督官の採用パンフレットの一番最初に名前が出てくる。そして監督官の新人研修の修了式に証票(警察手帳のようなもの)を交付する立場になる、全国の監督官を代表する立場の人である。
そして、都道府県労働局長。その都道府県内の監督署とハローワーク、そしてそれらの上部組織である労働局を束ねるトップである。東京労働局長が「チミのとこに是正勧告してあげようか?」などと〇〇な発言をして問題になったが、あのポストだ。
本省籍監督官が就けるのは東京や大阪などではなく、格としては落ちる地方の局らしいが、それでも署長とは比較にならない位偉い。
そこに至るまでの出世も早い。例えば労働局の課長は地方籍監督官が定年前になるかならないか、というようなポストだが、本省籍は30代後半位で就いてしまう。20年以上早く監督官になった大先輩より上席に就いてしまうことになる(やりにくいとのこと)。
ちなみに本省キャリアは30歳くらいで労働局の課長になるとのこと。出世が早すぎて眩暈がするレベルである。
なお、一度本省に行ったが結局地方に戻ってくる監督官も多い。超激務であること、定年まで全国転勤であること、仕事内容が全然違くて馴染めない等々が理由とのこと。